環境科学研究科環境動態学専攻 土田華鈴さん、環境科学部環境生態学科 浦部教授らの研究グループが、京都の交雑オオサンショウウオから新種の線虫2種類を発見しました
2022年11月28日
オオサンショウウオ(Andrias japonicus)は古くから形態を変えていない「生きている化石」と呼ばれる動物で、日本の特別天然記念物に指定されています。オオサンショウウオに寄生する線虫などの寄生虫は、大部分がオオサンショウウオのみに特異的に寄生する固有寄生虫です。日本産オオサンショウウオには、近年外来種チュウゴクオオサンショウウオ類の移入に伴う深刻な交雑問題が生じていますが、外来種は在来種と交雑して遺伝子浸透を引きおこすだけでなく、外来の寄生虫を持ち込むことによって在来生態系へ影響を与える可能性があります。
このほど滋賀県立大学大学院 環境科学研究科 環境動態学専攻の土田華鈴さん、同大学環境科学部 環境生態学科の浦部美佐子教授、京都大学大学院 地球環境学堂(兼 同大学人間・環境学研究科)の西川完途准教授により、京都府内の淀川水系に生息する交雑オオサンショウウオ(オオサンショウウオ×チュウゴクオオサンショウウオ類)の寄生虫調査が行われ,新種の線虫2種が発表されました。なお、現段階でチュウゴクオオサンショウウオ類の移入に伴う外来寄生虫の導入は認識されませんでした。
(線虫頭部のSEM画像。左: Falcaustra hanzaki, 右: Urodelnema takanoensis)
記
1.研究・調査等の概要
文化庁の許可の下、京都府淀川水系の河川で捕獲され、遺伝子鑑定の結果交雑オオサンショウウオと判定された16個体から寄生虫を採集しました。形態特性及びゲノム情報から、腸管から検出された2種が新種であることが判明し、それぞれFalcaustra hanzaki、Urodelnema takanoensisとして新種記載されました。両種は体側面に側翼という鰭状の構造を持ち、雄の交尾器にみられる副交接棘がV字型であることから、中国産の同分類群種と区別されました。また、線虫類の重要な分類形質である雄個体の尾部の乳頭突起の配列も両種は既知種と異なり、これらが新種であることを支持しました。F. hanzakiは京都府の淀川水系のオオサンショウウオ個体群に広く寄生し、一方U. takanoensisは同水系高野川の個体からのみ検出されました。これらの種を近縁種と一緒に分子系統解析したところ、これらの属する科(Kathlaniidae科)は多系統群であり、分類体系が混乱していることが明らかとなりました。
2.成果のポイント
本研究で記載された2つの新種は、中国でチュウゴクオオサンショウウオ類から記載されている線虫類とは別種であると判断されました。したがって,両種は中国産の外来寄生虫ではなく、日本産オオサンショウウオ個体群に元々寄生している在来種と考えられます。本研究により、京都府のオオサンショウウオ類に寄生するKathlaniidae科線虫は、従来知られていた1属1種から3属3種に増加しました。このように、日本のオオサンショウウオ類からは未だに新種寄生虫の発見の余地があることが明らかとなり、本種の寄生虫相の地域性や宿主特異性の理解にはさらにデータを蓄積する必要があることが判明しました。さらに、本研究ではKathlaniidae科線虫は多系統となり、従来の形態情報による分類体系では科・上科レベルで分類の混乱が見られることが明らかになったため、今後分子的手法を用いて分類体系を再構築する必要性が示されました。
3.論文タイトルと著者
タイトル:Two new kathlaniid species (Nematoda: Cosmocercoidea) parasitic in salamanders of the genus Andrias (Amphibia: Caudata: Cryptobranchidae)
著者:Karin Tuschida, Misako Urabe, Kanto Nishikawa
掲載誌:Parasitology International
オンライン掲載日:2022年10月19日
DOI:10.1016/j.parint.2022.102693